2021年平和旬間 日本カトリック司教協議会会長談話
すべてのいのちを守ることこそ、平和をつくる。
「すべてのいのちを守るため」。これは2019年11月の教皇訪日のテーマでした。今年も平和旬間を迎えて、平和について考え、平和のために祈り、行動するに当たって、「すべてのいのちを守る」ことこそ平和への道であり、平和をつくるという確信を皆で共有したいと思います。
今、世界各地での武力紛争や難民問題などに加えて、「新しい冷戦」とも呼ばれる米中間の対立が国際社会の安定と政治や経済の分野に少なからぬ悪影響を与えつつあります。諸国間には、常によりよい関係構築のために忍耐強い対話の努力を続けるよう強く願わずにはいられません。また、2021年1月22日をもって「核兵器禁止条約」が発効したにもかかわらず、核保有国と、日本を含む、核の傘の下にある国々は、この条約は現実的でないという理由で認めようとしません。唯一の被爆国である日本こそ真っ先に批准すべきだと思います。核保有国も批准せざるを得なくなるまで、批准国が一国でも増えるように祈り、かつ働きかけたいと思います。諸国間の対立も大量破壊兵器も平和を脅かすからです。また、ミャンマーやアフガニスタンほかの国々で、逸脱した権力と武力にさらされた人々が人権を無視され、平和とはほど遠い生活を強いられています。国の安全と繁栄のためという大義名分のもとで一人ひとりのいのちがあまりにもなおざりにされていないでしょうか。
新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)の結果、7月半ば現 在で1 億8 千900 万人以上が感染し、400万人以上が死亡、無数の人々が困窮に追い込まれています。残念ながら、感染者とその関係者だけで なく、医療従事者まで差別や偏見の対象になっています。ワクチンの配 分も貧しい国々は後回しにされているため、いのちの危険が増し、社会 情勢も不穏になる一方です。皆がそれぞれ苦しんでいるのです。互いに 理解し助け支え合い、富める強い国は貧しい人々を助けるべきです。わ たしたちは数限りない人々のおかげで生活ができているのですから、自 分だけでなくほかの人のいのちをも守らなければなりません。そのため には、教皇とイスラームの指導者(大イマーム)との共同文書『世界平 和のための人類のきょうだい愛』(2019 年2 月4 日)および教皇回勅 『兄弟の皆さん』(2020 年10 月3 日)の精神を共有し、すべての人の いのちの尊厳を等しく尊重し、兄弟姉妹として相互の信頼を深めていく 必要があります。
どのような自然環境、どのような社会環境にあっても、すべてのいの ちを守ることを最優先し、そうすることによってこそ平和をつくってい きたいものです。いのちは、個々のいのちだけでなくいのちのつながり をも意味すると考えるべきです。ですから、一つ一つのいのち、一人ひ とりのいのちを守ることは、いのちといのちのつながりを守ることであ り、それは同時に個々のいのちを守ることになります。そして、個々の いのちが充足し、いのちといのちの間に調和があり、すべてのいのちが 幸福に満たされる状態こそが平和なのです。
2021 年7 月15 日
日本カトリック司教協議会会長
カトリック長崎大司教 髙見三明