綱渡り

ブラザー八木信彦、OMI ー  学生の頃、夏休みに、サーカスでバイトをした経験があります。もちろん、曲芸師としてではなく照明係としてです。サーカスのお客さんが入る大きなメインのテントの裏には、サーカスに登場する動物の檻、団員の生活の場である小さなテント、そして食堂となる中くらいのテントがあり、バイトの人たちの昼食は、そこで団員と一緒に食べました。ある時、昼食で一緒になった団員から、綱渡りのコツを教えてやろうということになり、厳しい訓練かと思いきや、彼によるとロープの上をうまく歩くための秘訣は、たった二つのことだけなんだと言うのです。

 一つ目は、ロープの上を歩む前方正面の一点を見つめ、そこから目をそらさない、そらすと転落するとのこと。もう一つは、長いバーを持ち、このバーに身を委ねてバランスをとることだそうです。難しいようで実はシンプルなんですね。

 これを、世の中を歩むための、しかも足元のおぼつかない不安定な中、まさに今、戦争の危険がある中、自然災害が多発する中、経済が不安定な中、健康が心配な中、社会や家族の人間関係が希薄な中、そんな宙に浮いたロープの上を渡っていくかのような中で歩んでいく秘訣になるのでは、と思いついたことがあります。

 それは、栄光に輝くイエスを見つめる、そこから目をはなさない、イエスとつながっていること、イエスから目を離した時点で、つながらなくなった時点で、転落してしまうこと。そして、バーに当たるのが聖霊の守り導き、マリア様や聖人のご加護で、それに身を委ねることなのかもしれません。委ねることで、動的/静的、外的/内的、活動的/黙想的、そういうバランスもとってくれるのでしょう。

 私たちの歩みも営みも、この二つのように歩むと、この大変な状況の中でも渡りきれるのではないかと思い始めました。

 ただし気付いたことがあります。私たちが一点であるイエスを見つめようと歩んでいたら、実はイエスの方から、私たち一人一人という一点を見つめ続けていてくれたこと、イエスが私たち一人一人から目をそらさないで、落ちないように守り支えていてくれていたこと、落ちそうになったときしっかりと腕をつかんですくい上げてくれていたこと、見つめていたのは私からイエスではなく、イエスから私たち一人一人に対してだったこと…です。

 それに気付くことこそが、この足元のおぼつかない不安定な世の中を渡りきれる秘訣かもしない…。

 そのために「霊性を深める」ことが、私たちが、今後の大変な状況の中でも、渡りきるキーワードになるのではないかと考えました。難しいようで実はとてもシンプルなのかもしれません。
 

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